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異世界トリップファンタジー 奇跡の雨男 7話

「そうじゃ。わしは龍神じゃ。名前は『クズル』と言う」
クズルと名乗ったの子供はそう言うと、その金色の瞳を得意気に俺に向けた。
「つまり神がお前についておるのじゃ、ありがたく思うが良い」
にわかには信じがたい話だ。
しかし、現にこんな世界に飛ばされ、しかもつい先ほどまで龍と対峙していたのだ。あながち嘘とも言い切れない。
「な…なんで?」
俺は声をうわずらせる。
「なんで、俺が龍神に取り憑かれなきゃいけないんだ?」
その言葉にクズルは眉をひそめた。
「全く、人間とは面倒臭い生き物じゃな。己が昔やったことも忘れ果てておる」
「む…昔? 俺、龍神に取り憑かれるような悪いことをしたのか?」
 全く身に覚えないんだが。
「そうじゃ。お前はわしの5つ目の魂を食ったのじゃ」
「はあ?」
全く記憶にない。
「いつ?どこで???」
「今、お前が生きる世界より1500年ほど前、竜宮と呼ばれた場所でじゃ」
「はあ? 1500年前? 生まれてないんですけど」
「だから、今のお前の前前前前前世の話じゃ。全く人間は生まれ変わるごとに都合の悪い事を忘れるからタチが悪い」
「俺の前前前前前世?」
 歌かよ。
「って言うか、俺は前世とか、スピリチュアルとか、オカルトとかは信じない。したがって、そんな話は信じない」
「信じようが、信じまいが、事実は事実なのじゃ。現にお前はお前の生きている世界からすれば非現実的な現象に巻き込まれておるであろう?」
確かに…。
「じゃあ、その話が事実として、なんで前前前前前世の俺はお前の5番目の魂なんて食ったんだ?」
「わしの5番目の魂には特に強い力が宿っており、ありとあらゆる水の力を操る事ができるのじゃ。それで、当時の海の権力者どもが躍起になって欲しがっていた。お前はなんの権力もない人間だったが、その権力争いに巻き込まれてわしの魂を手に入れた。そして、事もあろうに食ってしまった」
「な…なんで食ったりしたんだ?」
「食えば、わしの力を自分の力にできると思ったんじゃろう」
「……」
「とにかく、お前がわしの魂を食ってしまった事で、わしは力の半分以上を奪われこのように童の姿になってしまった。それでわしはお前から5番目の魂を返してもらうべく、長い年月お前の側にいたということじゃ」
「つまり、お前がずっとそばにいたから俺は雨男だったってわけか」
「そうじゃ。ちなみに、お前の前世も、その前の前世も、さらにその前の前世もずっと雨男で彼女が出来ない一生だった。このままだと、来世も雨男で彼女が出来そうもないな。はっはっはっは」
「なんだと?」
 そんなのは嫌だ。
「じゃあ、俺がその5番目の魂を返せばいいって話だろ? 取り付いてないでさっさと持ってきゃいいじゃん」
「ところが、わしの魂はお前の魂に溶け込んでしまい、今のままでは取ることが出来ぬのじゃ」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。このまま未来永劫雨男で彼女が出来ないなんて嫌だよ」
「一つだけ方法がある」
「どんな方法だ?」
「お前がわしの魂を超えるレベルの人間になることだ。そうじゃなあ、お前の世界でいえばシャカとかキリストとかいわれる人間がおるじゃろう。あれぐらいまで魂のレベルを上げてくれれば…」
「絶対に無理だ。他に方法はないのか?」
「あるにはあるが、難しいぞ」
「どんな方法だ?」
「お前が俺に食われることだ」
「はい、却下。次の質問にうつろう。どうして、俺はこんな世界に飛ばされなくちゃいけなかったんだ?」
「それは、お前がわしを追い払おうとしたからじゃ」
「そんな理由で、こんなヒドイ目に合わすのか? 別れを切り出された未練がましい女じゃあるまいし」
「誤解するな。わしとて不本意なのじゃ。お前がわしを追い払おうとしたのでわしもちょっとばかりムキになって、お前の前に姿をあらわしてしまっただろう? それをお前が大人気なく追跡してきたから、わしも少し必死になりすぎてしまったのじゃ。故郷の神界に戻るつもりが、慌てて中途半端に異次元に飛び込んでしまい、さらにおかしな力に巻き込まれてこんな所に出てきてしまったのじゃ」
「なるほどね。それで、帰る事はもちろんできるんだよな?」
「無理じゃ」
「……はい?」
「無理」
クズルは非常にあっさりと答える。
「無理って事はないだろう? 来た事ができるんだから、帰る事もできるだろう?」
「いや。マジで無理じゃ」
「どうしてだよ」
「それは、歴史に異物が混入したからじゃ」
「異物? 異物ってなんだよ?」
「お前の事じゃ」
「もし、タイムパラドックス的な事いってるなら、俺はほぼ何の影響も与えてないと思うぞ。そういう事にならないように、あえて早めに引き上げてきたんだからさ」
「果たしてそうかな?」
「違うっていうのか?」
「そうとも言える」
「なんだよ? その含みのある言い方。ちゃんと説明しろよ」
「よかろう。しかたないから教えてやろう。今、お前が古代と呼ぶこの時間の上では神と魔が戦っておる」
「……のようだな」
 俺は、洞窟の中からでも見る事ができる異様な風景。空間を切り分けるようなあの黒い闇のカーテンの向こうを眺めながらうなずいた。
「この世界は、まだ神話の時代にいて、大地も空間も固まりきっていないのじゃ。だから、あのような光と闇がくっきりと別れたような奇妙な風景が地上に現れておる。神と魔の戦いは長く続くが、お前が居た時間から見た過去の世界では、とりあえず……あくまでも表面的にじゃが……光が勝利して、闇は地下に潜る事になる。お前達人間が、自分達の普段の行いの是非はともかく、心の底では正しく生きた方が良いという考えを持ったり、正しい事を子供に伝えたりするのはそのためじゃ」
「建て前とか、道徳とかいうやつの事か」
「そうじゃ。そういうものがなければ、世界は完全に地獄になる。ところが、お前という異物がこの世界に混入した事で、時間と空間のバランスが崩れたのじゃ。お前は、この世界を織り成すタペストリーに混入した異物なのじゃ」
「光と闇の戦いと俺の存在は何の関係もないだろう? 俺はどっちの味方もしてないし、誰も殺してないし。今のうちに帰っちまえば全部チャラだよ」
「だが、お前はイヨと出会ってしまった」
「イヨだって、すぐに俺の事なんか忘れるよ」
 言ってしまってから、何故かひどく凹む。すると、クズルは首を振った。
「そうであってくれればいいのだが……」
「どういう事だよ。もしかして、イヨは俺を忘れないって事か?」
「喜んでいる場合ではない。事は重大なのじゃ。いいか? ここに来てからわしなりに本来の歴史の流れについて調べてみたのじゃが、それによれば、本来の時の流れの中では、イヨは結局龍神を呼び出す事ができず、冥界の花嫁として闇の国に送られてしまうのじゃ。イヨは人生に絶望し、せめて冥界の王に一太刀でも浴びせようとして、それを実行する。小娘とあなどっていたのがいけなかった。冥王は心臓を貫かれてしまう。もちろん、その程度で死にはしないが……。そして、イヨは自分の剣が冥王の胸を貫いたのを見ると、すぐに毒を飲んで死んでしま宇野じゃ。冥王は一命はとりとめたものの、その時の傷が原因で徐々に力を失っていく。つまり、イヨの存在……というかイヨの死が世界に光をもたらす大きな鍵になっていくのじゃ」
「……」
 あまりのショックに口をきけなくなる。しかし、そういえばシキコ様とやら(面識はなかったが)が言っていたらしいな。「イヨはいつか、私達を救ってくれる子だから」とかなんとか。まさか、それが、そういう意味だったなんて……。
「ところが、お前が現れた事で、雨が降った。これで、イヨはもう冥界に行かずにすむ」
「そうなのか?」
「おそらくは…。はっきりとは分からぬが」
「そうか」
 ……と、胸をなでおろす。
「喜んでる場合ではないと言っておろう。それがどういう事を意味するか分からぬか? イヨが冥界に行かなければ、冥王の胸を貫く事もないのじゃ。ということは、世界は光に覆われる事もない。世界は変化し、未来は不確実になった。よって、もうお前は、元いた未来には帰れない」
「そ……そんな。でも、俺は人間であって龍神じゃない。つまり彼女は龍神を呼び出してないし……」
「ならば、お前が今から村長の所にいって『実は僕は龍神じゃないんです』と白状して来い」
「できるわけ無いだろう。殺される」
 殺されなくたって、できない。
「とにかく、お前の出現で、イヨは自信をつけてしまった。あの娘は、彼女があの村に来て以来与えられ続けた負の暗示のせいで、今までまったく自分の力を発揮する事ができなかった。しかし、お前との出会いで変わってしまった。」
「負の暗示?」
「そうじゃ。イヨはあの村では他所者な上に、見かけも日本人離れしているだろ?」
「確かに、目は大きいし、髪の色は薄くてウェーブがかかってる。日本人離れした美形だな」
「お前の住む世界ならそうじゃ。しかし、この時代で、あの見かけは、人々の恐れを引き出すだけじゃ。イヨはこの世界でずっと白い目で見られてきた。そして、あまりにも虐められ過ぎたために、自分でも自分をいじめるようになってしまったのじゃ。つまり、お前の世界での言い方では『自分にマイナスイメージを与え続けてしまった』。それがイヨの持つ本当の力を押さえ込んでいるんだ。そのかわり、イヨは死ぬ事を怖れていなかった。この世界に未練がないのであろう。だから、冥王にひと太刀浴びせるなどという無茶ができたのじゃ。しかし、お前に会った事で、イヨはこの世界に希望の光を見い出してしまった。もう、自殺する事はないだろう」
「俺が? 俺がイヨにそんなに影響力を持つのかな?」
「分かっておらぬようじゃが、イヨにとって、お前の出現は『生まれて始めて叶った願い』なのじゃ」
「……」
 何だか、ひどくショックだった。そんな風に……俺の存在をそこまでに思ってるのか? あの子は……。それを見捨てようとするなんて……そういう自分がひどく許せない。
「じゃあ、もし俺がここで居なくなったら、彼女は絶望して死んでしまうのかな?」
「それはないだろうが、イヨは『生きていれば光がさす事がある』という事を知ってしまったから、万が一この先冥王に囚われても、もう死ぬ事はないだろう。そして、いつまでも待つだろう。お前があらわれる事を。もっとも、その前に冥界に馴染んでしまうかもしれぬがな」
 その時、にわかに青白い稲妻が走り、クズルの姿がかき消えた。
 そのとたん、ゴゴーンと音がして、空間が揺らいだ。同時に、周りの風景がテレビでノイズが走ってるみたいになり、次には世界全体が様々な色をともなってぐにゃぐにゃと渦巻きはじめる。
「な……なんだ?」
 おどろいて、目を閉じる。
 そして、次に目を開いた時には何もかも元に戻っていた。
「今のも、お前の仕業か?」
 俺は、姿の見えないクズルに向かって叫んだ。するとどこからか声が聞こえる。
「違う。今のは空間のバランスが崩れた証じゃ。闇の力がますます強くなっておる。早くしないと、間に合わなくなるだろう」
 その言葉が終わると同時に小さな白蛇が現れて、俺に向かって舌を出し、どこへともなく消えて行った。
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